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<裸婦> 伊藤悌三

 芸術は個性であるとはよくいわれることであるが、一見しただけでそれがわかるのが絵画の世界である。裸婦の世界もその例外ではない。わたしがそれを実感できるのは、伊藤悌三画伯の作品をみるときである。伊藤先生はわが国における裸婦の大家であり、数多くの名作をのこしている。

 先生の作品はいずれも明るく屈託のない若い女をモデルにしている。絵の基調をなすものは天性の明るさであり、それに光と影が投影されているのだ。わたしは画伯の作品をぱっと見ただけですがすがしい気持ちになる。そのような気持ちにさせてくれるところに伊藤作品の醍醐味があるといえる。

 伊藤先生の作品の場合、わたしにとってこれがいちばんだという作品はない。座像でも横たわる裸婦でも伊藤先生の筆になるものならば、すべての作品が好きだというのがもっとも的確な答えである。だが、そのなかでもあえて選別するならば、スペインの女性をモデルにした裸婦である。

 伊藤画伯はこよなくスペインを愛した画家としても知られている。若いころからスペイン女性をこよなく愛して、毎年のようにスペインに渡ってはスペイン女性を描きつづけてきたのである。モデルはすべて若い女性たちで、ときには美術学校のお嬢さんたちを好んで描いたといわれている。

 悲しいことに人間のからだは年齢とともにかたちがくずれていく。女性のからだも若いころが美しさの頂点にある。胸の形、腰の形、腿肉の張り方、すべてが生命にみちあふれている。画伯は美の頂点にある若い女性の美しさを追求しつづけてきたのである。それもスペインまで足を運んで‥‥。

 色と形の美しさを純粋に表現することが伊藤芸術の極みであるといわれている。それはとりもなおさず画伯にとっては、女性のからだを素朴に、そして誠実に描くことである。裸には親の代、その前の代から受け継がれてきた歴史がある。それも美しさの重要な要素なのだ。伊藤先生はその真髄をわが国ばかりでなく、スペインまで足繁く通い続けることによって見出したのである。

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